特別対談
地主株式会社
西羅 代表取締役社長
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一橋ビジネススクール
楠木 教授
なぜ競合が現れないのか?
JINUSHIビジネスの競争優位性に迫る
JINUSHIビジネスの競争優位性に迫る

INTRODUCTION
2023年、地主はポーター賞を受賞しました。
ポーター賞は、競争戦略論の第一人者として知られるマイケル・ポーター氏の協力のもと2001年に創設された賞です。製品やプロセス、経営におけるイノベーションを土台に、独自の戦略で高い収益性を実現・維持している日本企業・事業を表彰しています。
ポーター賞の運営委員として、当社の審査を担当した一橋ビジネススクール 国際企業戦略専攻 特任教授の楠木健氏と、当社代表取締役社長・西羅の対談から、ポーター賞に認められた「JINUSHIビジネス」の競争優位性に迫ります。
※2026年5月対談
外部要因とは無縁の"優れた戦略"
西羅:楠木先生は当社のビジネスモデルに対し、当初どのような印象を持たれましたか?
楠木氏:私は、2001年のポーター賞創設時から審査委員を務めてきました。世の中には、「結果」を表彰する賞は多くありますが、ポーター賞は、結果を導く「要因」を表彰する点に特異性があります。つまり、戦略の質を評価するという考えです。
地主がポーター賞に応募してきた時も、当然、そうした観点で事業を見ました。しかし、正直に言えば、当初はJINUSHIビジネスの凄さがよく分かりませんでした。ビジネスモデルがあまりにもシンプルで、どこまで成長性があるのか見通せず、一定のニーズがあるとしても、非常にニッチな事業ではないかと感じていました。ほかの審査員も同様の受け止めだったと記憶しています。
しかし、途中で「なるほど」とJINUSHIビジネスの凄さに気づき始め、次第に「この手があったのか」という評価に変わっていきました。
過去に地主と同様の印象を持った企業があります。同じくポーター賞を受賞したとある企業です。その企業の代表取締役会長を務めていた方に、「なぜこれほど事業がこれほど儲かるのか、なかなか理解するのが難しい」と聞きました。すると会長は、「君みたいな人がすぐには分からないから儲かるのだよ」と言うのです。私はこの言葉に非常に納得しました。
例えば、AI関連企業や半導体関連企業が儲かっている理由は説明しやすいです。AI需要が伸びることで半導体需要が増え、結果として関連企業の業績が伸びています。しかし、その成長は、戦略の良し悪しよりも、外部要因に寄るところが大きいのです。
私が興味を持つ「優れた戦略」とは、技術革新等の明確な外部要因で儲かる企業ではなく、事業の外にいる人間にとってはなかなか分からないような優れた独自の戦略によって利益を生み出すビジネスモデルなのです。私は、「JINUSHIビジネス」もこれに当てはまると考えています。
JINUSHIビジネスの模倣障壁 なぜ誰も真似をしないのか
西羅:楠木先生がJINUSHIビジネスをご評価いただいたポイントはどこでしょうか?
楠木氏:ひとつには「なぜ誰も思いつかなかったのか」ということです。過去に膨大な不動産取引が行われてきた中で、なぜ土地だけを建物から切り出して取引する発想が広がらなかったのか。さらに、その発想があっても、地主以外に専業のプレイヤーが現れなかった点も、まず気にかかりました。
地主は、創業25年超が経ち、着実に成長してきていますが、正面からJINUSHIビジネスを真似るピュアプレイヤーは未だ現れてはいませんね?
西羅:はい。案件ごとに底地開発をしたり、売買をしたりする事業者は、当社が創出・開拓してきた底地マーケットの拡大とともに、望む通り増えてきていますが、当社のように専業で土地のみの不動産金融商品をつくる会社はいません。
楠木氏:地主のように専業で行う会社がほかになぜ現れないのかということが、地主の戦略の質を測る上で非常に重要な問いだと思います。西羅社長は、その理由をどのように考えていますか?
西羅:いくつかの理由が考えられます。そもそも従来の不動産取引では、土地と建物はセットで考えることが常識であり、土地だけに投資するというのは、いわば非常識なビジネスだったのです。
当社創業初期は、底地マーケット自体がまだなかったため、他人の建物が乗った土地(底地)は権利が棄損していると見なされ、適正な評価を得られませんでした。リーマンショックや東日本大震災等を経て、その長期安定性が注目されるまで、理解を広げるには大きな苦労がありました。
また、ある一定の時期まで、具体的には、我々の武器であり世界初の底地特化型の私募リート「地主プライベートリート投資法人(地主リート)」が一定規模に成長するまでは、あえて目立たないようにしていた戦略のおかげだと思います。
拙速にJINUSHIビジネスの可能性を世に知らしめてしまうと、資本力の大きいプレイヤーに市場を奪われてしまうため、地主リートを開始するタイミングと、成長させるスピードは、強く意識していました。そのため、地主リートがある程度の規模に成長した後に、社名変更を行い、TVCMの放送を開始するなどして、世に打って出たのです。
楠木氏:確かに今地主が有する実績や先行者優位は、規模の経済によるところもあります。地主の動きに着目して、すぐに誰かが追従していれば、現在のポジションは確立できなかったかもしれません。ただし、あくまでそれは、結果的なものであるともいえます。
私が地主の戦略における最大の特徴だと思うのは、従来の(土地・建物を一体として扱う)不動産取引をやってきた人たちの目から見たときに、JINUSHIビジネスは「つまらなく見える」ことだと思うのです。
西羅:まさにおっしゃる通りです。私もよく例え話としてお伝えするのですが、私が新卒で大手の不動産デベロッパーに入社し、土地のみで商品開発を行う部署があったとして、そこに配属されていたなら、がっかりしていたことでしょう。地図に残るような華やかな開発をして、「あれは私たちが作ったのだ」と言ってみたいと思うことが、不動産業のDNAにあるのではないでしょうか。土地のみを貸すJINUSHIビジネスは、長期に安定した不動産金融商品をつくることができても、つまらなく、ワクワクしないのでしょう。
楠木氏:まさに、「つまらない」というのがポイントです。つまり、真似をしたいという「動機を持たない」ことでもあります。
競争戦略において、競争優位が長期的に持続する理由は、結局のところ模倣障壁という概念に必ず収斂していきます。他社は参入したくても模倣障壁があるため簡単には追随できません。だからこそ、強い会社は強さを維持し続けるのです。この模倣障壁は、特許や規模の経済、顧客基盤等である場合が多いですが、これらを持つことはとても大変です。
では、こうした模倣障壁の論理を使わずに、長期的な競争優位性を説明するとすれば、それは「競争相手が真似をしたいという動機を持たない」ことに尽きます。儲かるビジネスを組み立てている一方で、外部からはそんなに良い話には思われないことが、長期的な競争優位の構築に寄与しているのです。
地主専業だからこそ担える社会的意義
楠木氏:地主株式会社は、土地のみに特化したピュアプレイヤーです。そこには、実は不動産を土地と建物のセットとして考えている人が見落としている利点がいくつもあります。例えば、取引するスピードが単純に速くなります。100人規模の少人数で、スピーディーに事業を回すことができるため、利益率も高く、社名変更以後のたった4年間で、当期純利益を2倍以上に成長させることができたのでしょう。
西羅:仮に建物も扱うビジネスで、同じ規模の利益を上げようとすると、人員は3〜4倍は必要になってくるでしょう。
また、現在のインフレ進行下では、建築費の上昇等によって建物所有にかかるコストが増加しており、多くの不動産会社が苦境に陥っています。エネルギーコストの上昇や金利の上昇も追い打ちとなっています。しかし、建物を所有しない当社の場合、影響は金利だけです。金利上昇局面やインフレ進行下においても、JINUSHIビジネスは高い競争力を有しています。
楠木氏:私は、戦略の本質とは、常にひとつのことにフォーカスをしているかどうか、何をやらないかを決めることだと考えています。さまざまな需要に対応して、事業を広げていく会社も多いですが、それは、単に需要に対応しているだけであり、一貫した戦略とは言えません。常にリソースを集中させるからこそ、成長できるのです。
西羅:地主専業であることのメリットはほかにもあります。例えば、戦略的に土地を持ちたくないと考える事業者・テナントにとって、当社がまっさきに想起されやすいことも重要なポイントです。
仮に、事業者・テナントが、当社のような専業ではなく、一事業として底地を取り扱う不動産デベロッパーに土地を持ってもらうとすると、不動産デベロッパーによる将来の再開発時の退去リスク等にさらされます。不動産デベロッパーは建物開発を本業とするため、事業者・テナントの建築計画においても、想定していない交渉事が発生するかもしれません。
その一方で、当社はサイレントな「安定地主」であることを強みとしています。
底地特化型の私募リート「地主リート」は、アップサイドを狙わない、長期安定した不動産金融商品であることを前提として、機関投資家から資金を集めており、事業者・テナントに貸している土地を長期にわたって所有し続ける仕組みを構築しています。そのため、事業者・テナントの事業運営に口を出すことはありません。
その土地で、長期に安定して事業を継続したいと考える事業者・テナントにとって、最適なパートナーであると考えており、事実、事業者・テナントから直接土地取得のご相談をいただくことが大変多いです。
投資家からも、地主リートの長期安定性は高く評価いただいており、多くの年金基金や生損保、事業会社、学校法人などから投資をいただいています。
楠木氏:どんな業界においても、よい戦略やよい商売を一番的確に表現するには、「その会社がなくなったらどれだけ困り嘆き悲しむ人が多いのか」を語るに限ります。地主も、そうした社会的意義を担う会社だと感じます。
西羅:ありがとうございます。おっしゃっていただいたように、当社も社会的な意義や役割がようやく認知され始め、事業者・テナント、投資家はもちろん、社会的ニーズがある施設がつくられるという観点で地域社会からも必要とされる会社になってきていると感じています。さらなる成長を通じて、ご期待に応えていきます。
ポーター賞について

ポーター賞(主催:一橋ビジネススクール国際企業戦略専攻)は、競争戦略論の第一人者として知られる経営学の権威マイケル・ポーター氏協力のもと2001年に創立され、各業界をリードする有力企業が受賞してきた歴史ある賞です。製品、プロセス、経営手腕においてイノベーションを起こし、これを土台として独自性がある戦略を実行し、その結果として業界において高い収益性を達成・維持している日本の企業・事業を表彰しています。

受賞式の様子/左:一橋ビジネススクール 大薗 恵美 教授、右:当社代表取締役社長 西羅 曜旦